顧問医 坂井先生へのインタビュー

坂井義治 先生
京都大学医学部付属病院
消化管外科 科長/教授

1981年に京都大学の医学部を卒業され、1989年にカナダ・ウエスタンオンタリオ大学に留学されています。
まずは、カナダに留学された理由からお聞かせください。

今の専門とは違うのですが、当時、日本で肝臓移植がはじまろうとしていたので、肝臓移植の臨床の勉強や経験をしたい、という思いでカナダに留学しました。向こうの医師免許も取得し、脳死肝移植をやっていました。

帰国後は移植外科ではなく、なぜ消化器外科の道を選ばれたのですか。

教室の指示で癌の手術を担当することになり、それならば移植で学んだ技術をがんの治療に活かしたいと思ったのです。例えばですが、大学の数学の勉強をすると、高校や中学の数学が簡単になるのと同じで、移植という究極の手術を経験したら、がんの手術がやりやすくなるのでは、と思っていました。しかし、その時はそう思ったのですが、がんの手術は違う意味でとても難しいです。帰国後は、消化管や肝胆膵、それに留学前にやっていた肺がんの手術など、脳神経外科と心臓血管外科以外は10数年前までいろいろとやっていましたが、いつのまにか大腸が主になりました。

現在ご専門とされている消化管に関してお尋ねします。最近の報道でありましたように、がんの部位別罹患数では、大腸と胃がんがトップ2になっています。どのような要因によるものでしょうか。

大腸がんは罹患率も死亡率も増加傾向にあり、男女ともに50歳から増加し始めて、年齢とともに右肩上がりに増加しています。その理由の1つは高齢化の進展です。癌は年齢とともにできやすくなります。もう一つの理由は検診がまだ十分普及していないことでしょうか。大腸がんの罹患数は人口比で2.7倍もあるアメリカを追い抜いてしまいました。食事などの欧米化により日本の大腸癌が増えたといわれていますが、アメリカでは大腸癌の罹患数、死亡数ともに減少に転じており、これは検診の普及によると考えられています。検診により癌の前段階、腺腫と言いますが、その段階で検診によりみつかり、内視鏡治療により取り除かれるためと推測されています。

大腸がんは何がきっかけで見つかることが多いですか。

便が細くなった、排便時に出血があるなどの症状で受診される方が多いですが、ほかの病気にかかっていて貧血を指摘され、消化管の内視鏡検査で見つかる場合もあります。がんが大きくなってくると便の通りが悪くなるので、お腹が張って痛いと訴えられる方もいらっしゃいます。初期の段階では症状が現れにくいので、それこそ早期発見のためには検診が大切だと思います。

消化器がんの治療について教えてください。

これまでは外科治療、内視鏡治療、放射線治療、薬物治療でしたが、最近は免疫療法も加わりました。私が専門とする外科治療には開腹手術と腹腔鏡手術がありますが、最近は腹腔鏡手術がメインになります。開腹手術をすることはほとんどないですね。

腹腔鏡手術について、開腹手術との違いやメリットを教えてください。

最大のメリットは、お腹を大きく切らなくて済むことです。開腹手術の場合は、20~30cmの傷をつけて大きく開腹することになりますが、腹腔鏡手術では、小さな穴を数カ所あけて、そこから内視鏡と器具を入れて手術を行います。腹腔鏡手術は、術後の疼痛が少なく回復が早いので、患者さんにとって負担が少ないといえます。また、術者の目のみが頼りだった開腹手術に比べて安全性も明らかに高いといえます。腹腔鏡手術では内視鏡を通して拡大した映像をモニターに映し、複数のスタッフの目で確認しながら手術を行うことができます。臓器の裏や奥深く狭い場所でも、確認したい場所の近くまで寄ることができます。また手術工程がデジタル画像としてすべて保存されますので、術後にクオリティ評価、つまり復習もできます。一部に開腹手術でしか対応できないケースはありますが、腹腔鏡の良さが分かれば分かるほど、開腹手術はもうできないですね。

ここ10年間で消化管手術は開腹手術から腹腔鏡手術へ、そしてロボット支援手術へと発展していますが、ロボット支援手術にはどのようなメリットがあるかを教えてください。

京大病院でロボット支援手術を導入したのは2011年4月からです。第2世代ロボット(ダビンチS)が入りましたが、2017年8月に第4世代ロボット(ダビンチXi)に替わりました。メリットはいろいろありますが、一番は操作する医師にありますね。ロボットの手は自由な形で動いてくれます。先端をまわしたり、曲げたりできるので、人の手が入らないような狭い空間にアプローチできます。

それと、人の手は数ミリ単位で動かそうとすると手振れが起こることがありますが、ダヴィンチには手振れ防止機能があるので、周囲の血管や臓器を傷つけるリスクが格段に減りますね。あと、視野の問題で言いますと、3D画像なので奥行きが見えてわかりやすいのも利点です。倍率も術者が自由に操作できるので、見たい場所に近寄ることができるし、それを手元で簡単に操作できるのが大きなメリットですね。京大病院ではダヴィンチXiを導入して、さらにものすごく便利になりましたよ。内視鏡やアームがバージョンアップされて扱いやすく、手術がより楽になりました。こんな素晴らしいロボットを使わせてもらえて幸せです。私が多少、身体的に衰えても、それをカバーしてくれるわけですから。車の運転と同様、いつまでもロボットを扱えるわけではないとは思いますが、ロボット手術の自動化もすすめば、私の経験を活かせることがむしろ増えてくるのでは、と期待しています。

2018年4月から食道がん、胃がん、直腸がんのロボット支援手術が保険適応となりました。その影響を教えてください。

問い合わせは明らかに増えましたし、今後も増えていくことが想定されます。ただ、京大病院にはロボットが1台しかない一方で、ロボット支援手術に対応しているのは、消化管外科のほかに、泌尿器科、呼吸器外科、産婦人科、肝胆膵外科、耳鼻咽喉外科があるため、いつでも使えるわけではありません。ロボットを使えるスケジュールを細かに決めて、どの診療科もできるだけ平等に使えるようにしています。そして使用状況を逐一確認できるようにして、空きがでれば他の診療科に譲ると言った工夫もしています。診療科を超えたコミュニケーションがより必要ですし、働き方改革に逆行しますが夜中も使えるようにするのも改善策の1つかもしれませんね。

このままロボットが進化すると、外科医が必要なくなる...そんな未来もあるのでしょうか。ロボット支援手術の将来像や課題などがあれば教えてください。

ロボット手術が登場するなんて、30年前には予想すらできませんでした。今後、人工知能AIとセンシングテクノロジーが融合していくと、医者が直接手術に関与することは減っていくと思います。骨盤内は比較的に自動化手術に適しているので、アメリカでは早ければ5年後にセミオートで直腸がんのロボット手術ができるようになると言われていますし、我々も研究しています。医療工学士によるロボット管理の重要性が増していますが、AIの専門家も必要になるでしょう。外科医も、開腹手術ばかりか腹腔鏡手術も経験することなくロボット手術の修練をする時代が来るでしょうし、手術の修練も、現在とはまったく異なるものになるでしょう。人間には、五感を使って瞬時に感知、判断できる能力があります。これら全てを機械に任せることはできないでしょう。患者さんの状況を、自分の五感も磨きながらAIやロボットを使いつつチェックする、そういったトレーニングが必要になります。

これだけ技術が進歩して、逆に坂井先生が医師になった頃と変わらないこと、大事にし続けていることはありますか。

良いことを聞いてくれました(笑)。それこそ心(思いやり)の部分です。医療の基本は患者さんへの"心"ですから、この先時代が進んでも、医療現場で人の"心"がなくなることはないと思います。患者さんに対する思いが1つ目、チームに対する思いが2つ目、同僚に対する思いが3つ目。こういった心を持ち合わせていなければ、どれだけ技術が進歩しても、伝承されていかないと思うのです。心技体というように、より進化する"技"と"心"の調和というものがさらに大事になると思います。

坂井先生が病院を選ばれるときに、目利きされるポイントはありますか。

私が手術を受けるならば、ICUがあるかどうかを重視します。ICU専属の医師がいるかどうか。病気の進行度によっては大きな手術が必要になってきますから、術後の合併症の治療が重要となります。その治療ができるのがICUです。実際に大変重篤な合併症を生じた患者さんでもICUでの治療により助けてもらっています。素晴らしいICUチームを備える病院は、他の部門のレベルも高いのではないでしょうか。単に手術だけでなくトータルで治療してもらえる病院がお勧めです。そういった面で私は、ロボット手術ができて優秀なICUもある京大病院で手術を受けたいですね。

関西メディカルネットの会員の方々へメッセージをお願いします。

せっかくこれほどの健診を受けられるのですから、その内容をぜひ吟味してほしいですね。目前の健診結果が全てではありません。一時的な異常と評価されることもあれば、経年の傾向からみえることもあります。健診結果だけに右往左往せず、それにどういう意味があるのか、専門家である医師の説明を受けて、次にすべきことを選択してもらえばと思います。

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