健康コラム

インタビュー

<第6部>福井県立病院の陽子線がん治療センターについて

「陽子線治療の特色と今後の展望について」

お話/玉村裕保先生(福井県立病院 陽子線がん治療センター長)
日 時/2017年3月7日(火)
場 所/福井県立病院 陽子線がん治療センター センター長室
参加者/藤田 浩(株式会社関西メディカルネット 代表取締役社長)
    吉野 仁(同社 営業部 副部長)
    金 敦子(メディカルライター)
    長谷川千美(株式会社ヤップ ディレクター)


<第6部>福井県立病院の陽子線がん治療センターについて


[藤田] 福井県立病院ならではの取り組みをお聞かせください。

[玉村] 最大の特徴は、さきほどお話ししましたCT位置決め装置にあります。これは、当センターで開発した高いレベルの技術です。陽子線治療は毎回正確に腫瘍に照射する必要があるため、精度の高い位置決めが重要になります。従来はX線の画像を使っていましたが、X線は軟部組織が映りにくいので、骨で位置合わせをするしかありませんでした。われわれは、軟部組織が描けるCT位置決め装置を導入することで、腫瘍の3次元的な位置情報が得られており、これをもとに、より高精度の治療を行うことが可能になりました。

[藤田] CT位置決め装置を治療に応用したのは、福井県立病院が日本で初めてと聞きました。

[玉村] CT位置決めという概念は以前からあったのです。でも、具体的に運用されていなかったので、こちらで全部作り上げていきました。CT位置決め装置は、前立腺がんや肝臓がん、膵臓がんをはじめ、多くの部位での有用性が確認されています。当センターではさらに開発を進め、日本はもちろん、世界じゅうの施設でも有用に活用していただきたいと考えています。われわれのところだけではなく、他の施設でも使えるようになれば、精度の高い陽子線治療がどこでも受けられるようになり、がん治療がさらによい方向性へと導かれると思っています。

[進行] 毎回、腫瘍の位置を確認されるとのお話ですが、治療期間中に腫瘍が移動することもあるのでしょうか。

[玉村] 腫瘍がだんだん縮んでくると、周りにある臓器、たとえば腸などが腫瘍に寄ってくることがあります。それを知らずに照射すると、腫瘍にあてているつもりが、腸に陽子線をあてることになってしまいます。毎回CTで腫瘍の位置を確認するのは、そうしたことにならないための、極めて重要な作業です。また、当センターでは患者さんの食事、呼吸、体重、腸管、尿量をすべてチェックし、加えてCT位置決め装置で、腫瘍と周りの臓器を確認します。チェックの段階でズレが発見されれば、「良くない状態での照射」を避けることができます。場合によっては一度治療台から降りていただくこともありますし、尿量が少ない場合は、水を飲むなどして待機いただくこともあります。

[進行] そうした装置は、現時点ではこのセンターだけなのですね。

[玉村] 似たような装置を使っているところもありますが、このように綿密に運用しているのは当センターだけだと思います。神奈川県立がんセンターの重粒子線治療施設でも、CT位置決め装置を取り入れ活用していると聞いています。

[藤田] 世界初の照射システムも取り入れられたそうですね。

[玉村] はい、陽子線をいくつもの層に分けて照射する方法で、積層原体照射システムといいます。これは、陽子線治療において世界初の取り組みです。形を変えて何層にも照射することで、がん病巣周囲の正常組織への放射線による影響を極力抑えることができ、複雑な形状のがんでも高い精度で治療することが可能になりました。

[藤田] 食道がんについて、福井県立病院の資料を拝見すると、陽子線とX線の混合で治療をされているとありました。

[玉村] X線治療は周囲になんの影響も出さずに腫瘍の局所のみを治療するのが困難な反面、予防的治療も含め、比較的広い範囲を治療するのに適しています。一方、陽子線治療腫瘍の局所を治療するのに適しています。JASTROのホームページにも、この治療方法が掲載されています。あと2年すると治療後5年経過するので、評価が確立していくはずです。そうした両者の利点と薬物療法を組み合わせた「混合照射法」は、食道がんだけでなく頭頸部がんでも行っています。福井県立病院は福井県唯一の県立病院で、多くの臨床科があり、先駆的で高度な医療が行われています。特に薬物療法やX線治療は日本のトップレベルにあり、単科のセンターではなく総合病院だからこそ、このような複合的な治療ができると思っています。

[進行] 混合治療ができるのは線量をコントロールできるからですか?

[玉村] 昔はその合算ができなかったのですが、いまは計算できるシステムがあり、コントロールが可能になりました。たとえば地元の病院でX線を受けながら、陽子線治療の施設でがん病巣への集中治療を行うこともできるのはないでしょうか。将来的にはそのような使い方も出てくると思います。

[進行] 陽子線治療の機械は、一般にどこのメーカーのものが使われているのですか。

[玉村] 三菱、日立、住友など、日本のメーカーのものが強く、海外でも広く使われています。ほかにも、X線の機械が入るスペースがあれば、そこに入りますよというコンパクトな機械も出てきており、そうした機械は価格が少し安いため、中堅クラスの病院が治療の目玉的に導入するようになるかもしれません。陽子線の知名度が上がると爆発的に広がっていくのではないかと思います。しかし、日本放射線腫瘍学会(JASTRO)も警鐘を鳴らしていますが、治療経験のあるスタッフや施設基準が十分整わない状態で治療を行うことは大変危険であるので避けるべきです。このため、学会としては、陽子線治療に熟知した医者やスタッフの人材育成に備える方向です。

[藤田] いくら施設があってもそれを動かすドクターや、スタッフの知識や技術が不十分だとちょっと怖い気がしますね。

[玉村] その点、当センターは物理工学の知識を放射線療法に役立てる医学物理士や放射線技師に恵まれています。医学物理士という職業は、アメリカでは常識中の常識といえるポジションです。日本ではまだ少数ですが、これから極めて重要になると思います。彼らは正確な放射線療法を実施するための、機器や精度の管理などを行いますが、㎜の単位で放射線を止めるように調整するには、かなり工学的、理学的な知識が必要となります。高度で先駆的な医療を標榜する当センターでは、そこに目線を合わせた教育を積極的に行っています。将来は、ここからよい人材がどんどん全国に巣立ってくれるのではと期待しています。

[藤田] その可能性は十分高いですね。

[進行] 最後の質問ですが、玉村先生の治療のモットーをお聞かせください。

[玉村] 私は石川県立中央病院で副院長をされていた力丸茂穂先生に放射線療法のイロハを学びました。その先生から「困ったときは何も気にしないで患者さんのことだけを考えてやりなさい」と言われ、ずっとその教えを守ってきました。昔、放射線療法は「でもしか医療」と揶揄されていた時期がありました。それは「放射線でもしておきなさい」とか、「放射線しかすることがない」、という意味だったようです。しかし、手の施しようがなく放射線治療に回された患者さんを力丸先生が一生懸命治療すると、治癒する人が出てくるのです。そのとき先生がおっしゃったのは、「広範囲に放射線をドカンとあてているだけではダメなんだよ。腫瘍のあるのはここからここまでだから、そこは強く、周りは弱くていいんだよ」。放射線のあて方にもそうした工夫が必要であることを教えられ、その教えに従って照射を3段階に分けた治療をしていきました。そうしたところ、治らないといわれていた何人もの患者さんが実際治っていくのです。しかも副作用も極めて少ない。これは衝撃でしたね。いま行われている放射線療法の主流のIMRTやSIB法は、まさにこの考え方なのです。
 それぞれの患者さん、その人に合ったオーダーメイドの方法で、正確かつ丁寧な治療することで、人が救われていく。そうした治療における基本を、私は力丸先生から学びました。私は、これまで約4,500人の患者さんを治療してきましたが、3,500人ぐらいの患者さんを治療した頃から、X線の限界を感じてきました。そんな時に陽子線治療のすばらしさと出会いました。「これからは陽子線だ、この治療でもっと救える人がいる」と確信したのです。

[進行] そんな陽子線治療ですが、効果が得られやすいのは、やはり早期がんといえるでしょうか。

[玉村] もちろんです。進行するほど難しくなるのは、陽子線治療も同じです。早期で見つかったがんほど照射の回数が少なくすみ、患者さんにとっても楽だと思います。冒頭で述べましたように、いまは2人に1人が、がんになる時代です。誰にとっても、がんは決して他人事ではありません。だからこそ、健診は欠かさず受けて、早期発見に努めていただきたい。そうすることで、たとえがんが見つかっても、治癒する可能性は高まるのです。1人でも多くの方が、がんから身を守ることができるように……。医療者としてこれは切実な願いだと言えますね。

[藤田・進行] 本当にそうですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。