健康コラム

インタビュー

<第5部>陽子線治療の展望と課題について

「陽子線治療の特色と今後の展望について」

お話/玉村裕保先生(福井県立病院 陽子線がん治療センター長)
日 時/2017年3月7日(火)
場 所/福井県立病院 陽子線がん治療センター センター長室
参加者/藤田 浩(株式会社関西メディカルネット 代表取締役社長)
    吉野 仁(同社 営業部 副部長)
    金 敦子(メディカルライター)
    長谷川千美(株式会社ヤップ ディレクター)


<第5部>陽子線治療の展望と課題について


[藤田] 陽子線治療の展望についてはどのようにお考えですか?

[玉村] 私は平成28年度に小児がんへの陽子線治療が公的医療保険の適用となったように、多くの疾患においても陽子線治療が公的医療保険の適応となることを希望しています。それは陽子線治療医としてその効果を実感しているからですが、もう1つ個人的に注目している分野があります。それは乳がんの分野です。現在、乳がんに対する陽子線治療は世界的に注目を集めており、アメリカを中心として報告が増えています。いまのところ日本はちょっと出遅れていますが、手術が怖くて病院に行くことを躊躇している方や手術を受けたくても受けられない方にとってはよい治療法ではないかと思います。陽子線なら痛みはなく、体を傷つけることもなく乳がんを治せるかもしれません。また手術が困難とされる局所進行性乳がんの人もいますが、陽子線治療はそういう方たちにとっても福音となる治療法ではないかと思っています。乳がんの陽子線治療において、一番ネックになる問題点は、乳房の固定法です。乳房はやわらかく動きやすいので、毎回正確に照射するのは困難が生じます。そうした問題を解決するために、当センターでは下着メーカーのワコールと共同で、乳房固定用のブラジャーを開発しました。基礎実験はすでに終了し、精度よく陽子線治療ができることを確認したため、論文にして発表しました。それとあわせて福井県立病院では「乳がんの臨床試験」をアメリカの基準にならった内容で開始しており、現在、適応する患者さんを募集しています。この研究は臨床研究のため、乳がん治療にかかる陽子線治療の費用は福井県立病院が負担し、無料なのですが、アメリカの女性と日本の女性では、乳房のボリュームに違いがあるなどの問題があり、全部の基準に合う患者さんがなかなかおられず苦慮しています。

[藤田] 乳がんは治療法が確立されていて生存率も高いですから、他の治療に関心を持ちにくい、ということもあるのかもしれませんね。

[玉村] 乳がんの治療法は確立したよい方法で、我々も推奨しています。しかし、それでも手術を受けられずにいる患者さんがいます。このため、陽子線治療で救われる方は少なからずいるはずです。陽子線治療で行うメリットをもっと知ってもらうためにも、この研究はさらに進めていきたいですね。

[藤田] いままでは乳がんにおける陽子線治療の必要性について、いまひとつピンときませんでした。でも、いまのお話を伺って、そういう理由があるのだなあというがわかり納得できました。

[玉村] 次年度以降、この研究は加速すると思います。アメリカでも論文が出てきているので、なぜ日本はできないのかという声が絶対出てくると思います。

[藤田] アメリカでは、陽子線は一般的な治療になっているのでしょうか。

[玉村] 陽子線治療は日本が先行していたにもかかわらず、アメリカでは24時間体制で治療を行っている施設もあると聞いていますので、治療を受けている患者さんの数はケタ違いに多いです。テキサス州にある全米第一のがん治療施設、M.D.アンダーソンがんセンターで、多くの患者さんを陽子線で治療しています。筑波大学の陽子線治療センターでさえ、この15年間で4600人ほどですから、アメリカでは日本とは比較にならない勢いで陽子線治療患者が増えていると思います。アメリカには公的医療保険がないので、陽子線治療の費用がとりわけ高いという印象がないようですし、治験の場合は費用が宿泊費程度で済むので、募集するとあっという間に患者さんが集まるようです。ここ数年で施設の数も増加しています。また、韓国では陽子線治療が公的保険化されたようですので、外国ではこれからますます陽子線治療が広がり、ポピュラーながん治療の1つになるかもしれません。

[藤田] 陽子線治療の課題についても伺いたいのですが、やはり知名度が最大の課題でしょうか。

[玉村] その通りだと思います。陽子線は新しい治療のため、地元のかかりつけ医や、各疾患の専門医、陽子線治療に精通した医者のフォローアップが重要となります。患者さんが安心して治療に専念できるよう、多くの先生に陽子線治療のことを知って理解していただきたいと思っています。また、当センターを活用していただき、各先生と連携して、いっしょに患者さんを診ていけたらと思っています。